
先日、沖縄県の2025年度の観光収入が発表されました。
1兆747億円。
前年度より927億円、率にして9.4%の増加で、初めて1兆円を超えたそうです。
入域観光客数も1094万人で過去最多。
3年連続の記録更新でした。
沖縄で建設コンサルタントをしている人間として、素直に嬉しいニュースです。
ただ、この記事を読んだとき、私が線を引いたのは1兆円という数字ではありませんでした。
その下に、まったく逆を向いた数字が並んでいたからです。
この記事では、そのニュースを題材に、技術士第二次試験の設問(1)——課題抽出をどう考えるかを、実際にやってみます。
過去問がなくても、ニュース1本あれば練習はできます。
見出しの数字と、その下の数字
発表された内容を、もう一度並べてみます。
観光収入は1兆747億円で、前年度から9.4%の増加。
入域観光客数は1094万人で過去最多。
ここまでが見出しになる数字です。
一方で、同じ発表の中にこう書かれています。
「観光客全体の1人当たりの県内消費額は、2年連続で減少している。
外国客に限れば、前年度より5.2%のマイナスです。
玉城知事は要因として、中国経済の減速などによる影響に触れています。」
つまり、こういうことになります。
総額は伸びた。しかし、1人が落としていくお金は減り続けている。
総額が伸びたのは、人数が増えたからです。
国内客の単価が上がった一方で、全体としては薄まっている。
人数の増加が単価の低下を上回った結果として、1兆円という数字が出ています。
ここが、課題抽出の入口です

技術士試験の設問(1)は、多面的な観点から技術課題を抽出せよ、というものです。
ここで「沖縄観光は好調である。この勢いを維持することが課題である」と書いてしまうと、答案は先に進みません。
それは記事の見出しをなぞっただけで、課題を抽出したことにならないからです。
課題は、数字と数字が食い違っているところに現れます。
総額が過去最高なのに、単価は2年連続で下がっている。
この2つは同時に起きています。
ここに、いま解決されていない何かがある。
技術者が線を引くべきなのは、そちらです。
私が令和元年度に受験したとき、選択科目Ⅲでライフサイクルコストの縮減について書きました。
判定はBでした。
後から再現論文を読み返すと、課題を「施設整備時」と「維持管理時」の2つに割っただけになっていました。
時間で区切っただけで、何が食い違っているのかを見つけられていなかったのです。
同じ日に書いた必須科目ⅠはA判定でした。
何が違ったのかは別の記事に書きましたが、少なくとも「割り方が浅い」という自覚は、あのとき持てていませんでした。
観点を立ててみる
では実際に、この観光1兆円というニュースから、建設部門の技術者として観点を立ててみます。
私は河川・砂防及び海岸・海洋と、港湾及び空港の2部門で登録しています。
業務では道路や公園、上下水道にも関わってきました。
観光を支えるインフラは、この複数の分野にまたがっています。
だからこそ、どの立場から切るかで観点が変わります。
観点3つは「質・基盤・地域生活」
1つ目は、受入環境の質という観点です。
人数が過去最多を更新するということは、空港や港のターミナル、そこにつながる道路が、これまで以上の負荷を受けているということです。
混雑や待ち時間が増えれば、訪れた人の満足度は下がります。
人数が増えるほど1人あたりの体験の質が落ちるという構造があるなら、それは施設側の課題です。
2つ目は、滞在価値を支える基盤という観点です。
単価を上げるには、より長く滞在してもらうか、より高い価値の体験を提供する必要があります。
それを支えるのは宿泊施設だけではありません。
二次交通、周遊のしやすさ、悪天候時の代替手段。
海岸や河川の親水空間、公園の質。
「もう一泊したくなるかどうか」は、インフラの設計にかなりの部分が依存します。
3つ目は、地域生活との両立という観点です。
観光客が増えれば、渋滞や騒音、廃棄物、上下水道の需給といった形で、そこに住んでいる人の生活に影響が出ます。
離島や観光地では、繁忙期の給水と処理能力が制約になることもあります。
地域が疲弊すれば、観光そのものが続きません。
3つとも、「観光が好調である」という表面からは出てきません。
単価が下がっているという2つ目の数字を見て初めて、どれも輪郭を持ちます。
そして、ここが選択科目の答案では重要になります。
同じニュースでも、河川・砂防及び海岸・海洋なら海岸保全と利用の両立、港湾及び空港なら受入能力、道路なら周遊の円滑化、上下水道なら繁忙期の需給と、切り口はまったく変わります。
観点は、テーマではなく自分の立場から決まります。
なお、立てた観点をどう本文につなげるかは、
実際の答案の形で見るのが早い部分です。
noteで公開している令和8年度の分析記事では、
観点の書き出しから解決策までの流れを通しで示しています。
ご自身で立てた観点と見比べる材料にしてください。
令和8年度の出題形式と、なぜこの練習が効くのか
ここで、今年の試験の話に接続します。
令和8年度の建設部門は、必須科目Ⅰと選択科目Ⅲの計24問すべてで、設問(1)に「観点を明記せよ」という要求が入りました。
例外は1問もありません。
さらに施工計画・施工設備及び積算の脚注では、財源や人材の確保のような一般論ではなく、テーマに即して具体的に述べるよう明記されていました。
つまり今年の出題者は、どのテーマにも貼れる課題を封じにきています。
そうなると、必要なのは知識の量ではありません。
目の前の材料から、そこにしかない食い違いを見つける力です。
そしてこれは、過去問を解くよりも、ニュースを1本読むほうが練習になります。
過去問には、すでに背景文という形で「何が問題なのか」が書かれています。
整理された状態から始まる。しかしニュースは整理されていません。
見出しの数字と、その下の数字が、そのまま並んでいます。
どちらに線を引くかは、自分で決めるしかない。
本番で必要なのは、こちらの筋肉です。
今日からできる練習
やり方は簡単です。通勤の10分でできます。
まず、業界に関係するニュースを1本選びます。
見出しになっている数字を確認します。
次に、本文の中に見出しと逆を向いている数字がないかを探します。
今回であれば、1人当たり消費額の2年連続減少がそれでした。
見つかったら、その食い違いから観点を3つ立てて、こう書き出してみてください。
【観点:○○】○○することが技術課題である。
紙に書く必要はありません。
頭の中で3つ言えれば十分です。
3つ言えなかったら、材料の読み込みが足りていないということです。
もう一度本文を読み直してください。
そして、財源・人材・技術継承は使わないというルールを自分に課してください。
この3つは、どのニュースにも貼れてしまいます。
使わずに3つ立てられたとき、それがテーマ固有の課題です。
苦しかったら、それは正しい練習になっています。
まとめ

観光収入1兆円突破は、沖縄にとって大きなニュースです。
地元で仕事をしている人間として、まずは素直に受け止めたいと思います。
そのうえで、技術者としては、その下に並んでいた数字のほうを見たい。
総額の記録更新と、単価の連続減少。
この2つが同時に起きているという事実に、次にやるべきことが書かれています。
課題抽出とは、知識を並べる作業ではありません。
目の前の材料の中から、まだ解けていないものを見つける作業です。
その練習台は、過去問だけでなく、毎日のニュースの中にもあります。
今日の新聞を1本、そのつもりで読んでみてください。
次に読む → 令和8年度技術士試験 建設部門全24問の分析
あわせて読む → 技術士試験で財源と人材が書けなくなった日
※本記事の観光収入・入域観光客数に関する数値は、沖縄県が公表した2025年度の実績報道に基づきます。観点の立て方に関する記述は筆者の一例であり、正解を示すものではありません。判定に関する記述は、私自身の令和元年度の合否通知書と再現論文に基づく個人の分析です。
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■ 令和8年度 必須科目Ⅰ-2 全文答案例
グリーンインフラの問題です。観点をどう立てたか、
なぜその課題を最重要としたかという設計意図まで書いています。
■ 論文セルフチェックリスト20(令和8年度対応版)
建設部門の24問すべてを並べ、そこから逆算した点検表です。
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