
技術士第二次試験の設問(3)には、昔から2つの語が使われてきました。
「リスク」と「懸念事項」です。
多くの受験生は、この2つを同じ意味として扱っていると思います。
私自身もそうでした。
しかし令和8年度の24問を並べて、文型ごとに集計してみると、この2語は無作為に使われているのではなく、ほぼ一貫した規則で使い分けられていることが分かりました。
「ほぼ」と書いたのには理由があります。
完全に一致するわけではなく、2つの例外があるからです。
そして、その例外を追いかけたことで、当初考えていたよりも一段深い境界線が見えてきました。
この記事では、24問の集計結果と、例外が教えてくれたことを順番に示します。
なお、建設部門・全24問を横断した全体像は柱記事(全24問の分析)にまとめています。
この記事は、そのうち設問(3)の1論点を掘り下げたものです。
まず、24問の設問(3)を型で分けた
文の骨格は3種類だった
集計の前に、まず何を数えたかを説明します。
設問(3)は、24問すべてで解決策のあとに生じる問題を問うています。
ただし、その問い方の骨格には違いがありました。
整理すると3つの型に分かれます。
型A:「すべての解決策を実行しても新たに生じうる〜」 解決策を実行した、その直後に生じる副作用を問う型です。19問がこの型でした。
型B:「解決策に関連して新たに浮かび上がってくる将来的な〜」 時間が経ってから顕在化する問題を問う型です。4問がこの型でした。
型C:「市民や関係者から提起されうる〜」 副作用でも将来問題でもなく、誰が言い出すかという主語を指定する型です。都市及び地方計画のⅢ-1、1問だけがこの型でした。
19+4+1=24。すべての問題が、このどれかに当てはまります。
型と用語を突き合わせる
次に、この3つの型に、それぞれ「リスク」と「懸念事項」のどちらが使われていたかを重ねました。結果が下の表です。
| 型 | 該当数 | リスク | 懸念事項 |
|---|---|---|---|
| 型A(すべての解決策を実行しても) | 19問 | 17問 | 2問 |
| 型B(将来的に浮かび上がる) | 4問 | 0問 | 4問 |
| 型C(市民や関係者から) | 1問 | 0問 | 1問 |
型Bと型Cは、きれいに「懸念事項」で統一されていました。例外なしです。
一方、型Aは19問のうち17問が「リスク」でしたが、2問だけ「懸念事項」を使っていました。
必須科目Ⅰ-1と、港湾及び空港のⅢ-1です。
最初、この2問は集計ミスかと思いました。
しかし問題文を何度読み直しても、確かに「すべての解決策を実行しても新たに生じうる懸念事項」と書かれています。
単純な時間軸の違いでは、この2問を説明できません。
例外の2問に共通していたこと

必須Ⅰ-1と港湾Ⅲ-1は、何が違うのか
そこで、この2問がなぜ型Aの構文でありながら「懸念事項」を選んだのかを考えました。
必須科目Ⅰ-1のテーマは、新技術・DXの活用によるインフラの価値向上です。
港湾及び空港のⅢ-1のテーマは、国際コンテナ戦略港湾の施策です。
一見、共通点はなさそうに見えます。
しかし、ほかの型A・17問(リスクを使った問題)のテーマと並べると、違いが浮かんできます。
型A・リスクの17問は、盛土の被害軽減、鋼構造の耐震補強、河道計画、道路の災害対応、トンネルの近接施工、鉄道の防災対策など、具体的な構造物や工事、特定の技術的操作を対象にしています。
解決策を実行した結果、その構造物や現場で何が起きるかを問うている。
対象がはっきりしているぶん、生じうる不具合も技術的に特定しやすい。
だから「リスク」という、確率や発生条件を伴う語がなじみます。
一方、必須Ⅰ-1のインフラの価値向上や、港湾Ⅲ-1の国際コンテナ戦略港湾は、特定の構造物ではなく、政策や産業戦略の話です。
AI・ロボット等の新技術活用がどう社会に影響するか、国際競争力の強化がどんな副次的影響を生むか。
これは特定の現場で発生する技術的な不具合というより、社会的・経済的な広がりを持つ不確実性です。
見えてきた境界線
ここから見えてくる仮説は、こうです。
時間軸の違いは、確かに型Bと型A全体を分けています。
しかし型Aの内部で「リスク」と「懸念事項」を分けているのは、時間軸ではなく、対象が技術的に特定できる現場・構造物なのか、それとも政策・戦略のように広がりを持つテーマなのか、という違いではないか。
技術的に特定できる場面では「リスク」。
政策や価値、社会的枠組みを扱う場面では、直後に生じるものであっても「懸念事項」。
これは推測です。
出題者がこの基準を明文化しているわけではなく、24問の用語選択から逆算した仮説にとどまります。
ただし、型Bと型Cがすべて懸念事項で統一されていたこと、そして例外の2問がどちらも政策・戦略レベルのテーマだったことを考えると、単なる表記のゆれとして片付けるよりは、筋が通っていると考えています。
答案でどちらの語を使うべきか
問題文の語をそのまま使うのが大前提
実務としては、まず大前提があります。
設問文が「リスク」と書いていれば「リスク」、「懸念事項」と書いていれば「懸念事項」を、答案でもそのまま使ってください。
これは前提条件であり、疑う余地はありません。採点者が対応を追いやすくなります。
問題は、その先です。
答案の中で、抽出した課題そのものについて言及するとき、あるいは設問(3)以外の箇所で同種の言葉を使うとき、どちらの語感がふさわしいかを判断する場面があります。
そこで、この境界線の仮説が使えます。
使い分けの目安
具体的な工法や部材、現場条件に紐づく問題であれば「リスク」を使う。
たとえば、ある補強工法を採用した結果、施工中に生じる別の技術的不具合。これは技術的に特定できる場面です。
一方、制度設計や産業戦略、社会的な合意形成に関わる問題であれば「懸念事項」を使う。
たとえば、ある政策を推進した結果、特定の利害関係者に生じる不利益。
これは広がりを持つ不確実性です。
型Bのように、時間が経ってから顕在化する問題については、対象を問わず「懸念事項」が自然です。
将来のことは、技術的な現場であっても確率で語りにくいためです。
都市及び地方計画の型Cが教えてくれること
型Cの都市及び地方計画Ⅲ-1も、この理解を補強します。
この問題は、立地適正化計画の見直しに際して、市民や関係者から提起されうる懸念事項を問うていました。
まちづくりという、最も広く合意形成が問われるテーマで、しかも主語まで「市民や関係者」と指定されている。
技術的な現場の話から最も遠い設問で、最も明確に「懸念事項」が選ばれています。
これは、先の仮説と矛盾しません。
この分析でまだ分からないこと
正直に書いておきます。
必須Ⅰ-1と港湾Ⅲ-1が、なぜ型A(すべての解決策を実行しても)の文型を保ったまま「懸念事項」を選んだのか、その理由は出題者に確認しない限り確定できません。
文型は時間軸を、用語は対象の性質を、それぞれ別の軸で決めているという可能性もあります。
あるいは、単に作題者の語感の違いという、分析の対象にならない要因かもしれません。
この記事の仮説は、24問という限られた母集団からの帰納であり、来年も同じ規則で問題がつくられる保証はありません。
ただ、「リスク」と「懸念事項」が無作為に選ばれているのではなく、何らかの意図を反映している可能性が高いことは、24問の分布から言えると考えています。
今日からできる練習
過去問演習で、次の一手間を足してください。
- 設問(3)を読んだら、まず文型(型A・型B・型C)を確認する。「すべての解決策を実行しても」なのか「将来的に浮かび上がる」なのか「市民や関係者から」なのか
- 使われている語が「リスク」か「懸念事項」かを確認し、答案でも同じ語を使う
- 設問文にない場面で自分から言葉を選ぶときは、対象が技術的に特定できる現場か、それとも政策・戦略のように広がりを持つテーマかを判断材料にする
- 将来的に顕在化する問題(型B)については、対象を問わず「懸念事項」で書く
小さな違いに見えるかもしれません。
しかし採点者は、受験生が問題文をどれだけ正確に読んでいるかを、こうした細部からも見ています。
まとめ

令和8年度の24問を、設問(3)の文型と用語で突き合わせると、時間軸による大きな区分(型A・型B)がある一方で、型Aの内部にさらに細かい境界線がありました。
技術的に特定できる現場の話なら「リスク」。
政策や価値、広がりを持つ社会的テーマの話なら、直後の問題であっても「懸念事項」。
この境界線は推測の域を出ませんが、24問という数で裏付けられた推測です。
次に問題文を読むときは、リスクと懸念事項、この2語がどちらを選んでいるかに、少しだけ注意を向けてみてください。
この記事のもとになった全体分析 → 令和8年度技術士試験 建設部門全24問の分析
あわせて読む → 技術士試験で財源と人材が書けなくなった日
※本記事は、日本技術士会が公開した令和8年度技術士第二次試験問題(建設部門)に基づく分析です。用語選択の意図に関する記述は、問題文の記載から筆者が読み取った仮説であり、公式に示されたものではありません。
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