
令和8年度の技術士第二次試験(建設部門)の問題文を、11科目すべて集めて並べました。
必須科目Ⅰが2問、選択科目Ⅲが22問。合わせて24問です。
一問ずつ読んでいたときは、正直よく分かりませんでした。
「観点を明記せよ」と念を押す科目、しない科目。「3つ」と指定する科目、「3つ以上」の科目、「複数」でよい科目。
バラバラに見えたのです。
ところが24問を横に並べた瞬間、はっきりしました。
表現は違いますが、出題者がやろうとしていたことは1つです。
しかも、その意図を題者自身が問題文の中に書き残している箇所が2つ見つかりました。
推測ではなく、問題文の言葉として確認できます。
この記事は、その全体像をまとめたものです。
細かい論点は続編に分けますので、まずは地図として読んでください。
調べた範囲と方法
対象は、日本技術士会が公開した令和8年度技術士第二次試験問題(建設部門)のうち、必須科目Ⅰの2問と、選択科目Ⅲの22問です。
選択科目は、土質及び基礎/鋼構造及びコンクリート/都市及び地方計画/河川・砂防及び海岸・海洋/港湾及び空港/電力土木/道路/鉄道/トンネル/施工計画・施工設備及び積算/建設環境の11科目。
建設部門の全科目を網羅しています。
やったことは単純です。
各問の設問(1)から(3)を、要求ごとに分解して表にしました。
課題の数はいくつか。観点に条件が付いているか。
脚注はあるか。
設問(2)に用語の指定はあるか。
設問(3)は何を問うているか。
結果が下の表です。この記事の中身は、ほぼこの1枚に入っています。
| 科目 | 課題の数 | 一般論を封じる装置 | (2)専門用語の指定 | (3)の型 |
|---|---|---|---|---|
| 必須科目Ⅰ | 3つ | 観点の範囲を指定 | なし | A / B |
| 土質及び基礎 | 3つ以上 | 対象の特定(盛土) | あり | A / A |
| 鋼構造及びコンクリート | 3つ | ― | あり | A / B |
| 都市及び地方計画 | 3つ | ― | Ⅲ-1のみ | C / A |
| 河川、砂防及び海岸・海洋 | 3つ | 観点の範囲を指定 | あり | A / A |
| 港湾及び空港 | 3つ | 選択科目に紐付け | なし | A / B |
| 電力土木 | 3つ以上 | 対象の特定(施設) | あり | A / A |
| 道路 | 3つ | 観点を除外指定(Ⅲ-2) | なし | A / A |
| 鉄道 | 3つ | 事例の提示(Ⅲ-2) | あり | A / A |
| トンネル | 3つ以上 | 対象の特定(工法) | あり | A / A |
| 施工計画、施工設備及び積算 | 3つ | 一般論を明示的に禁止 | あり | A / B |
| 建設環境 | 複数 | ― | Ⅲ-1のみ | A / A |
設問(3)の型の記号は、後ろの章で説明します。
24問すべてに入っていた、唯一の要求
まず、争いのない事実から確認します。
24問すべてで、設問(1)に「観点を明記せよ」という要求が入っていました。
例外はありません。
これは強い事実だと思います。
11科目の作題者がそれぞれ独立に問題をつくっているのに、24問中24問で一致した要求は、これ1つだけでした。
しかも、設問の性格が変わっても外れていません。
都市及び地方計画のⅢ-1は、問われているのが「技術課題」ではなく「評価すべき課題」で、示すのも解決策ではなく「評価方法」です。
設問の骨格そのものが他科目と違う。
それでも「評価の観点を明記したうえで」と書かれています。
一方で、興味深いことに脚注の「必ず観点を述べてから技術課題を示せ」は、半分にしかありません。
必須科目Ⅰ、土質及び基礎、鋼構造及びコンクリート、河川・砂防及び海岸・海洋、港湾及び空港、施工計画・施工設備及び積算の6つにはあり、残る6科目にはない。
ここから読めることは、脚注は念押しにすぎないということです。
本体は、本文の「それぞれの観点を明記したうえで」のほうです。
脚注がない科目だから軽く扱ってよい、ということにはなりません。
なお、選択科目Ⅱには観点に関する要求が一切ありません。変化は、課題を抽出させる設問だけに集中しています。
出題者は4つの方法で「一般論」を封じた
ここからが本題です。
「観点を明記せよ」は共通でしたが、その観点をどう絞らせるかという仕掛けは、科目ごとに違いました。
24問を並べると、4つの型に整理できます。
型1:観点そのものを直接しばる
必須科目Ⅰは、観点をインフラの価値に関するもの(Ⅰ-1)、人と自然が共生する社会づくりに関するもの(Ⅰ-2)と限定しました。
河川・砂防及び海岸・海洋も同じ方式で、複合災害の応急対応、水災害の事業評価と範囲を指定しています。
道路のⅢ-2は逆向きです。
老朽化に伴う維持管理の観点は除く、と名指しで外しました。
型2:対象を先に決めさせる
これが最も多い型でした。
土質及び基礎は、対象とする盛土を明記してから課題を書けと求めています。
トンネルは、山岳工法と限定するか、開削工法とシールド工法のどちらかを明記させる。
電力土木は、施設を1つ挙げてリプレースの工事内容を概説してから課題に入れと指示しています。
鉄道のⅢ-2も、コスト縮減の実例を挙げてから課題を抽出させる形です。
具体的な対象を先に固定させれば、抽象論は物理的に書けなくなります。
構造で封じているわけです。
型3:選択科目に紐付ける
港湾及び空港は、範囲指定をしない代わりに「あなたの選択科目に関わる技術課題」と限定しました。
選択科目の内容は日本技術士会が公表していますから、その定義が事実上の枠になります。
型4:一般論を名指しで禁じる
施工計画・施工設備及び積算は、脚注でこう書いています。
技術課題は財源や人材の確保のような一般論ではなく、外国人労働者の活用(Ⅲ-2では猛暑対策)に関して具体的に述べよ、と。
12のブロックのうち、9つに何らかの装置が入っていました。
装置がなかったのは、鋼構造及びコンクリート、都市及び地方計画、建設環境の3つだけです。
形は4通りに散らばっていますが、狙いは1つだと思います。「どこにでも書ける観点で埋めるな」ということです。
出題者自身が線を引いていた

なぜそう言い切れるのか。問題文の中に、根拠が2つあります。
根拠1 施工計画が名指しした「一般論」
1つは、いま挙げた施工計画の脚注です。
財源や人材の確保のような一般論ではなく、と書いた瞬間に、出題者は封じたいものを自分の言葉で名指ししました。
財源の確保。人材の確保。この2つは、建設部門のどの科目のどんなテーマでも書けてしまいます。
技術継承や制度の整備も同じでしょう。
私はこれを「万能の3点セット」と呼んでいます。
テーマが何であれ、とりあえずこれを並べれば形にはなる。
多くの参考書がこの型を教えていますし、私自身も使っていました。
根拠2 電力土木だけが見せた言い換え
そしてもう1つ、より静かで、より決定的な根拠があります。
電力土木の言葉づかいです。
電力土木のⅢ-1は、発電設備のリプレースをテーマに「対応すべき技術課題を」と書いています。
ところが同じ科目のⅢ-2、技術継承・人材育成をテーマにした問題では、「技術継承・人材育成に関する課題を」と書いている。
技術の2文字が消えているのです。
同じ科目、同じ年度、おそらく同じ作題者です。
それが、人材育成をテーマにした途端に「技術課題」という語を使わなかった。
出題者は、人材の問題を「課題」ではあっても「技術課題」ではないと考えている。
そう読むのが自然だと思います。
同じことが道路と都市及び地方計画にも起きています。
自動物流道路を扱う道路のⅢ-1は「課題」、災害対応を扱うⅢ-2は「技術課題」。
都市及び地方計画は2問とも「課題」でした。
技術に限定しにくいテーマでは、語が使い分けられています。
つまり、問題文が「技術課題」と書いているのに、人材不足や財源不足を並べた答案は、出題者の定義から外れている可能性があります。
施工計画は脚注でそれを明示し、電力土木は語の選択でそれを示した。
表現方法が違うだけで、認識は一致していると読めます。
設問(3)と課題の数は、科目ごとに違う
もう2つ、24問を並べて初めて見えたことを書いておきます。
ここは続編で詳しく扱いますので、要点だけです。
設問(3)には3つの型がある
型A「すべての解決策を実行しても新たに生じうる〜」が19問。解決策を打った直後の副作用、つまりトレードオフを問うています。
型B「解決策に関連して新たに浮かび上がってくる将来的な〜」が4問。時間が経ってから顕在化する問題です。
この4問はすべて「懸念事項」という語を使っていました。
一方の型Aは、19問中17問が「リスク」です。
用語の揺れに見えて、実は対応しています。
今すぐ生じる副作用は確率で語れるので「リスク」、将来じわじわ出てくるものは測りにくいので「懸念事項」。
問われている時間軸が違うのですから、書く内容も変わります。
型Cは1問だけ、都市及び地方計画のⅢ-1です。市民や関係者から提起されうる懸念事項、と主語まで指定されていました。
課題の数は3つに分かれる
「3つ」と固定したのが16問、「3つ以上」が6問(土質及び基礎、電力土木、トンネル)、「複数」が2問(建設環境)でした。
これは軽視できません。「課題は3つ」と暗記している方は多いと思いますが、自分の科目が「3つ以上」なら4つ書いても問題なく、逆に「3つ」と指定された科目で4つ書けば指定違反です。
自分の科目がどれかを、過去問で確認しておく価値があります。
公式は「変更なし」と言っている
ここで、多くの方が引っかかるはずの矛盾に触れておきます。
令和8年度から、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の改訂版が適用されました。
ところが日本技術士会は、公式サイトのQ&Aで、令和元年度から実施してきた現行の筆記試験問題と口頭試験の試問事項で全体として改訂版コンピテンシーに対応できているとの判断から、試験内容については変更がないと明言しています。
公式が変更なしと言っているのに、問題文の書きぶりは明らかに変わりました。
どう両立するのでしょうか。
私は、こう読むのが最も整合的だと考えています。
新しい能力が求められるようになったのではなく、これまでも採点されていたことが、明文化された。
観点を持って課題を切ることは、令和元年度の制度改訂以来ずっと求められていました。
今年変わったのは、それを答案上に見える形で書け、と指示されたことです。
要求の中身ではなく、要求の表示方法が変わった。だから制度上は「変更なし」で筋が通ります。
私の答案には、観点の明示がなかった
そして、この読み方には私自身の根拠があります。
令和元年度、私は建設部門(港湾及び空港、2科目め)に合格しました。
合否通知書の判定は、必須科目ⅠがA、選択科目ⅡがA、選択科目ⅢがBです。
合格後に再現論文を読み返して、気づいたことがあります。
あの答案には、観点の明示がありませんでした。
必須Ⅰでは課題を災害の種別で分け、選択Ⅲでは施設整備時と維持管理時という時間軸で分けていました。
どちらも「○○の観点から」という書き出しをしていません。それでも必須ⅠはAでした。
当時はそれで通ったのです。
しかし令和8年度の問題文の下では、同じ書き方は形式への違反として扱われる可能性があります。
時間軸で2つに割っただけの区分が、多面的な観点として認められるかも怪しいところです。
これを恐ろしいこととは思っていません。
採点者が心の中で見ていた基準が、問題文に書き出された。
受験生から見れば、見えなかったものが見えるようになったということです。
ただし、明文化されたということは、従わなかったときの扱いも明確になるということでもあります。
今日からできる5つのチェック
演習の段階から習慣にしたいことを挙げます。
- 自分の科目の「課題の数」を確認する。「3つ」なのか「3つ以上」なのか「複数」なのか。指定は数まで含めて読む
- 問題文の中から「絞り込み装置」を探してから書き始める。観点の範囲指定、対象の特定要求、選択科目への紐付け、除外指定、一般論の禁止。どれか1つは入っていると思って探す
- 観点の候補から、財源・人材・技術継承を一度外して考える。外して3つ立てられるかを試し、どうしても必要なら「担い手が減る中でも機能を維持できるか」のように、テーマ側の言葉に翻訳してから使う
- 設問(3)がA型かB型かを分類する。「すべての解決策を実行しても」なら直後の副作用、「将来的に浮かび上がる」なら時間が経ってからの問題。書く内容が変わります
- 問題文の語をそのまま答案でも使う。「技術課題」か「課題」か、「リスク」か「懸念事項」か。採点者が対応を追いやすくなります
どれも技術力とは無関係の作業です。
しかし、判定を分けるのはこちら側であることがあります。
この先に書くこと
この記事は全体像なので、個々の論点は続編に分けます。
- 財源と人材が書けなくなった日——4つの装置と、施工計画の脚注、電力土木の言い換えを詳しく
- リスクと懸念事項はどう違うか——設問(3)の3類型と、それぞれの書き分け
- 課題は3つか、3つ以上か——科目別の数の指定と、指定違反のリスク
- 令和9年度に狙われる国の計画——複数科目で同時に引用された資料の傾向(11月公開予定)
公開したものから、この記事に順次リンクを貼っていきます。
まとめ

令和8年度の24問を貫いていたのは、「どこにでも書ける答案を書かせない」という一点でした。
装置は科目ごとに違います。
観点の範囲指定、対象の特定、選択科目への紐付け、一般論の明示的禁止。形が4通りに散らばっているので、1科目だけを見ていると気づけません。
裏を返せば、対策も1つです。
問題文の中から、自分の書ける範囲を限定している一文を探す。
それを見つけてから書き始める。
万能の型が使えなくなったというのは、真面目に準備してきた人にとってはむしろ追い風だと私は思っています。
まずは自分の科目の問題文を、条件文と脚注まで含めてもう一度読んでみてください。今日はそこからで十分です。
次に読む → 技術士二次試験が終わったら、まず再現論文を書く
あわせて読む → 技術士二次試験のあと、結果を待つ期間の過ごし方
※本記事は、日本技術士会が公開した令和8年度技術士第二次試験問題(建設部門)の必須科目Ⅰおよび選択科目Ⅲ全11科目を対象とした分析です。コンピテンシー改訂と試験内容に関する記述は、日本技術士会「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)に関する質問」および文部科学省の公表資料によります。出題意図に関する記述は、問題文の記載から筆者が読み取った解釈であり、公式に示されたものではありません。判定に関する記述は、私自身の令和元年度の合否通知書と再現論文に基づく個人の分析です。
もし「準備してきた材料はあるのに、それを問題文にどう合わせればいいか分からない」という感覚があるなら、公式LINEから気軽に相談してください。
昔の私がまさにそこで詰まっていました。
売り込みはしませんので、そこは安心してください。
