余白に書き込みをしながら業務経歴票を読み返す机上の様子

「口頭試験の準備、何から始めればいいか分からない」

この時期にいちばん多くいただく質問です。

結論を先に書きます。

いまやることは、業務経歴票の読み返しだけです。

それ以外は、合格が分かってからで間に合います。

ただし、読み返しには手順があります。

漫然と眺めても何も出てきません。

今回はその手順を書きます。

(口頭試験で何が問われるのかについては、技術士の口頭試験は60.0%だった にまとめています)

想定問答集を先に作ってはいけない

多くの方が最初に手をつけるのが、想定問答集です。

これを先に作ると、たいてい失敗します。

理由は単純で、用意した答えを話そうとしてしまうからです。

試験官の質問は、想定した文言とは違う角度から来ます。

そのとき、頭の中にある「答え」に引き寄せて話してしまう。

結果として、聞かれたことに答えていない受け答えになります。

私の再現記録を読み返すと、まさにそれが起きていました。

ブイを使った調査の話を準備していたので、何を聞かれてもブイの話に戻ろうとしています。

試験官はQ5でこう聞いています。

そもそも静穏度が足りないという、なんらかの要望というか、苦情というかがあったと思うのですが、それに対するコミュニケーション、解決策の説明とか

構造物の説明ではなく、その手前の合意形成を聞かれています。

私は準備してきた調査手法の話に寄せて答え続けていました。

順番が逆なのです。

材料を掘り起こすのが先、想定問答はその後です。

深掘りは「探す」ではなく「掘る」

ここで多くの方が誤解されます。

深掘りとは、より良い業務を探す作業ではありません。

すでに提出した業務詳細の中を、掘る作業です。

口頭試験の質問は、提出済みの業務経歴票を土台に組み立てられます。

試験官はそれを読んでから部屋に入ってきます。

ですから、本番でどれだけ立派な業務を思いついても意味がありません。

書いていないことを話すと、話が噛み合わなくなります。

逆に言えば、材料はもう手元にあります。

新しく用意するものは何もありません。

業務詳細から書き出す7項目

ノートに7項目を箇条書きで書き出したイメージ

紙とペンを用意して、以下を書き出してください。

① 何を頼まれた業務か

発注者が求めたこと。仕様書の文言ではなく、実質的に何を期待されていたか。

② 立ちはだかった問題は何か

目標と現状のギャップ。「困っていたこと」ではなく「あるべき姿との差」で書きます。

③ 制約は何だったか

人員、予算、工期、地形、法規制。動かせなかった条件を列挙します。

④ 選択肢は何があったか

A案・B案。実際に比較したもの。検討して捨てた案こそ重要です。

⑤ どれを選び、なぜそう判断したか

なるべくロジカルに整理する。

⑥ 結果はどうだったか

できれば数値で。

⑦ 今なら何を変えるか

箇条書きで構いません。完璧を目指さないでください。

所要時間は40分から1時間程度です。

文章にしようとすると手が止まりますので、単語の羅列で十分です。

このあと詳しく書きますが、7つのうち差がつくのは⑤と⑦の2つです。

①から④は、書けば出てきます。

本当に問われるのは⑤と⑦

⑤ なぜそう判断したか

これは技術士としての判断力そのものです。

「経験上そうした」では答えになりません。

何と何を比較し、どの基準で選んだのかまで言語化してください。

私の業務でいえば、うねり対策として防波堤を沖に延伸する案と、港口に波除堤を配置する案がありました。

当初は岸壁そのものを別の場所に移す案が有力で、関係者からも概ね承諾を得ていました。

この「捨てた案」を説明できるかどうかで、判断力が伝わるかが決まります。

選んだ案だけを話すと、他に選択肢がなかったように聞こえてしまいます。

⑦ 今なら何を変えるか

ここが最も差がつきます。

そして、成功談で固めてきた方が最も詰まる場所です。

私の再現記録から、実際のやり取りを引きます。

試験官はまずQ14で、こう聞きました。

実際の評価、業務の評価なんですが、成果としてはどういうものだったのでしょうか。その結果をどういう風に評価していますか?

私はこう答えています。

成果としては対策工の計画、その後の設計です。この業務のあと、現在他の港で同様の業務を実施しておりまして、その際には実施したブイとかドローンを飛ばしながらを行いまして、他の港でも同様の手法をとっています。

手法が他の港へ広がったという話です。

悪い内容ではありません。

ただ、これは成果物の説明であって、評価にはなっていません。

何点の仕事だったのか、何が足りなかったのかが入っていない。

そして試験官は、Q16でこう聞き直しました。

逆によくなかった事例、反省点はありますか?今後の業務改善につなげたい点はありますか?

聞き直された、ということです。

このとき私は、当初案で一部の関係者から反対が出て手戻りが生じたこと、それ以降はリスクコミュニケーションを先に行うようにしていることを答えました。

これは評価として成立する答えです。

ただ、最初から言えていれば、聞き直される必要はありませんでした。

私のこの項目の得点は、30点満点中18.00点。

合格基準はちょうど60%ですから、18.00点は最低ラインそのものです。

成功談を先に、反省を後に。

この順番が逆だったのだと思います。

⑦を書き出すとき、「うまくいったこと」を先に思い浮かべないでください。

先に「あと何をすれば点数が上がったか」を書いてください。

それが言えれば、評価というコンピテンシーは伝わります。

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その業務、「対立と折衷」の構図になっていますか

防波堤とフェリー、沖に浮かぶ1つのブイ。静穏度対策の業務のイメージ

7項目を書き出したら、最後に1つだけ確認してください。

その業務は、誰かと誰かの利害が対立し、双方が譲歩する形でまとまっていますか。

この構図があると、口頭試験は一気に答えやすくなります。

コミュニケーション、リーダーシップ、評価、マネジメント。

4つすべてを、同じ1つの業務から説明できるからです。

よくある構図は、この3つです。

  • コスト削減と環境保全
  • 工期短縮と品質確保
  • 他分野との条件の食い違い

私の業務は、3つ目でした。

港の静穏度が足りず、地元がフェリーの運航に苦労している。

対策として港口に波除堤を置く案を出したところ、

フェリーの船長から「航路に近く、操船に不安が残る」という意見が出ました。

安全側の要求と、運航側の要求が正面からぶつかったわけです。

私はブイを2か月ほど設置し、実際にフェリーを運航していただき、GPS・AIS・ドローンで航跡を記録しました。

船長の「なんとなく怖い」という暗黙知を、離隔距離という数字に置き換えたのです。

その資料をもとに合意に至りました。

これが「対立と折衷」の形です。

ここで大事なことを1つ。

実際には対立があったのに、経歴票には書かれていないことがよくあります。

経歴票は技術的な内容が中心になりますから、合意形成の過程は省かれがちです。

書かれていなくても、背景にあったなら語れます。

経歴票を読み返して「技術の話しか書いていない」と感じたら、その裏で誰と何を調整したかを思い出してください。

それは確実にあったはずです。

いつから始めるか

ここは、私自身の反省から書きます。

先の記事では「想定問答集の作成は合格が分かってからで間に合う」と書きました。

それは今も同じ考えです。

ただし、7項目の書き出しは、いま済ませておいてください。

私が受験した年、筆記の合格発表は10月末、口頭試験は12月上旬でした。

準備期間は約1か月です。

そしてその1か月に、出張と完了検査と災害復旧が重なりました。

直前は毎日深夜まで残業が続き、勉強どころではありませんでした。

車での移動中に経歴の説明を口に出して練習する、それが精一杯でした。

合格が分かってから始めればいい、というのは、その1か月が空いていればの話です。

空いている保証はどこにもありません。

いま、結果を待っている数か月は、業務のことをまだ覚えている時期でもあります。

記憶が新しいうちに書き出したメモは、11月以降のあなたを確実に助けます。

1業務分だけで構いません。

詳細に書いた業務、1つです。

それだけ済ませておいてください。

おわりに

口頭試験は20分です。

その20分で話す内容が、いま手元にある業務経歴票の中にすべて入っています。

新しく足すものはありません。掘り出して、言葉にしておくだけです。

私は18.00点でした。

技術が足りなかったわけではないと思っています。

掘り出す時間がなかった、それだけです。

いまのあなたには、その時間があります。


1業務分、40分です。その40分を、今日のうちに。

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【免責注記】 ※本記事は、日本技術士会が公表している技術士試験の実施に関する資料および、筆者自身の受験経験に基づいて作成しています。試験当日のやり取りは筆者が試験後に記録したもので、逐語の完全な再現ではありません。解釈は筆者のものであり、公式に示されたものではありません。試問事項・配点は年度により変更される場合があります。合格を保証するものではありません。 ※無断転載・再配布を禁じます。 © Okinawa-ichi, All rights reserved.

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