赤鉛筆で消す

技術士第二次試験の課題抽出には、昔から「困ったときの型」があります。

財源の確保。

人材の確保。

そして技術継承。

この3つは、建設部門のどの科目の、どんなテーマでも書けてしまいます。

インフラ老朽化でも、防災でも、DXでも、脱炭素でも。

とりあえずこれを並べれば、答案の形にはなる。

多くの参考書がこの型を教えていますし、正直に言えば、私自身も令和元年度の受験で使っていました。

令和8年度、この型が問題文のレベルで封じられました。

推測ではありません。

出題者が自分の言葉でそう書いた箇所が1つ、語の選び方でそれを示した箇所が1つ、問題文の中に確認できます。

この記事では、その2つの証拠を示したうえで、では代わりに何を書けばよいのかまでを整理します。

なお、建設部門・全24問を横断した全体像は考察柱記事(全24問の分析)にまとめています。

ここでは、そのうち最も重要な1論点の深掘りです。

証拠1 施工計画の脚注が名指しした

「財源や人材の確保のような一般論ではなく」

まず、動かない証拠からです。

令和8年度の施工計画・施工設備及び積算の選択科目Ⅲは、2問とも設問(1)の脚注にこう書いています。

技術課題は、財源や人材の確保のような一般論ではなく、外国人労働者の活用(Ⅲ-2では猛暑対策)に関して具体的に述べよ、と。

読んだ瞬間、手が止まりました。

出題者が、封じたいものを自分の言葉で名指ししています。

「一般論を避けよ」という抽象的な注意ではありません。

「財源や人材の確保のような」と、具体例を挙げて禁じている。

つまり出題者は、受験生が何を書いてくるかを正確に知っていて、それを事前に断ちに来たわけです。

なぜ名指しされたのか

理由は、この2つの汎用性の高さにあると思います。

試しに、令和8年度の他科目のテーマに当てはめてみてください。

外国人労働者の活用。猛暑対策。グリーンインフラ。複合災害。インフラ更新。

どのテーマでも「財源が足りない」「人材が足りない」は課題として成立してしまいます。

成立してしまうということは、そのテーマについて考えていなくても書けるということです。

出題者が測りたいのは、テーマに固有の技術的困難を特定する力のはずです。

どこにでも貼れる課題は、その力を測る材料になりません。

だから封じた。そう読むのが素直だと思います。

証拠2 電力土木の静かな言い換え

「技術課題」から技術の2文字が消えた

2枚の書類を見比べる

2つ目の証拠は、もっと静かです。

気づいたとき、こちらのほうが決定的だと感じました。

電力土木の選択科目Ⅲを見てください。

Ⅲ-1は、発電設備のリプレースがテーマです。

問題文は「電力土木技術者が対応すべき技術課題を多面的な観点から3つ以上抽出し」と書いています。

Ⅲ-2は、技術継承・人材育成がテーマです。

問題文は「技術継承・人材育成に関する課題を多面的な観点から3つ以上抽出し」と書いています。

技術の2文字が、消えています。

同じ科目の、同じ年度の、隣り合う2問です。

作題しているのは同じチームでしょう。

その出題者が、設備リプレースには「技術課題」という語を使い、人材育成には使わなかった。

この使い分けが意味すること

偶然の表記ゆれと考えることもできます。

しかし、同じ使い分けが他の科目にもあるのです。

道路の選択科目Ⅲは、自動物流道路を扱うⅢ-1が「課題」、災害対応を扱うⅢ-2が「技術課題」でした。

都市及び地方計画は、まちづくりの評価と古民家活用という、技術に限定しにくいテーマの2問で、どちらも「課題」です。

技術で切り込めるテーマには「技術課題」、そうでないテーマには「課題」。

語が、テーマの性質に応じて選ばれています。

ここから導かれる結論は1つです。

出題者は、人材の問題を「課題」ではあっても「技術課題」ではないと位置づけている。

したがって、問題文が「技術課題を抽出せよ」と書いているときに、人材不足や財源不足をそのまま並べた答案は、出題者の定義から外れている可能性が高い。

施工計画は脚注でこれを明示し、電力土木は語の選択で示した。

表現の方法が違うだけで、認識は一致しています。

逆の証拠もある——人材が「主題」になった問題

ここで、反対側の事実も正確に書いておきます。

これを押さえていないと、この話は「人材と書いたら減点」という雑な理解に化けてしまうからです。

いま見た電力土木のⅢ-2は、技術継承・人材育成そのものがテーマの問題です。

この問題では、人材について書くことが題意そのものであって、避けるべき一般論ではありません。

鉄道のⅢ-1も、熟練者の大量退職による技術力低下を問題文の背景に明記しています。

施工計画のⅢ-1に至っては、労働力不足への対応としての外国人労働者活用がテーマです。

つまり、人材や財源が「書けなくなった」のではありません。位置が変わったのです。

  • 問題文がテーマとして指定したとき → 主題。正面から書く
  • 問題文が別のテーマを指定しているとき → 一般論。そのまま書けば題意の外

同じ「人材不足」という言葉が、問題によって主題にも一般論にもなる。

判定するのは自分の知識ではなく、問題文です。

答案を書く前に確認すべき場所が、頭の中から問題文に移った。

令和8年度の変化の本質は、ここにあると思います。

では、何を書けばいいのか

手順1 まず3点セットを外して考える

演習では、課題の候補から財源・人材・技術継承をいったん外してください。

外したうえで、観点を3つ立てられるか。

最初はかなり苦しいはずです。

私が指導している技術者の方も、ここで手が止まりました。

しかし、この苦しさこそが「テーマについて考える」ことの中身です。

3点セットは、この苦しさを回避する装置だったわけです。

手順2 問題文の中から観点の枠を拾う

外した後の拠り所は、問題文そのものにあります。

令和8年度の必須科目Ⅰ-1は、観点をインフラの価値に関するものとすると指定したうえで、本文中でインフラの価値を「インフラの意義やインフラが果たしている役割」と定義までしています。

出題者が観点の枠を書いてくれているのです。

この定義に沿えば、安全性、信頼性、利便性、持続可能性といった、インフラが社会に提供している機能の側から観点が立ちます。

範囲指定がない問題でも、対象の特定要求(土質及び基礎、トンネル)や選択科目への紐付け(港湾及び空港)という形で、枠は必ずどこかに置かれています。

詳しくは考察柱記事の4類型を参照してください。

手順3 どうしても必要なら「翻訳」して使う

それでも人材や財源に触れたい場面はあります。

そのときは、テーマ側の言葉に翻訳してから使ってください。

たとえば「人材が不足している」ではなく、「点検技術者が減少する中でも診断精度を維持できるか」。

「財源が足りない」ではなく、「限られた更新予算の中で優先順位をどう定量化するか」。

違いは何か。

前者はどのテーマにも貼れますが、後者はそのテーマでしか成立しません。

翻訳とは、汎用の課題をテーマ固有の技術的問いに変換する作業です。

この一手間が入っていれば、人材や財源に触れること自体は問題ないと考えます。

私の答案も、実は翻訳で通っていた

令和元年度の私の再現論文を読み返すと、A判定だった必須科目Ⅰでは、担い手不足そのものを課題にしていません。

代わりに、住民に防災情報を分かりやすく伝える力、という形で、人に関する論点をテーマ(水災害)固有の問いに変換して書いていました。

当時は意識していませんでしたが、いま見ればあれは翻訳でした。

一方、B判定だった選択科目Ⅲでは、施設整備時・維持管理時という時間軸の区分だけで課題を立てていて、テーマ固有の翻訳が弱かった。

判定を分けた要因は見出し番号の崩壊が最大だったと分析していますが、課題の立て方の差も、いま思えば無関係ではなかったはずです。

今日からの練習法

過去問演習に、次の一手間を足してください。

  1. 設問(1)を読んだら、書き始める前に「この問題で財源・人材・技術継承をそのまま書いたら題意に合うか」を判定する。テーマとして指定されていれば主題、されていなければ封印
  2. 封印した状態で観点を3つ立てる。10分考えて出なければ、問題文の背景部分を読み直す。枠は必ず問題文の中にあります
  3. 書き上げた答案の課題を1つずつ見て、「この課題は他のテーマにも貼れるか」を自問する。貼れるなら、翻訳が足りていません

3つ目のチェックは、AIに答案を読ませて「この課題は他のテーマでも成立するか」と聞く使い方もできます。

点数をつけさせるのではなく、汎用性の検出だけをさせる。AIが得意な領域です。

まとめ

令和8年度に起きたことを一言でまとめると、「どこにでも書ける課題」の居場所がなくなった、です。

施工計画の脚注は、それを言葉で示しました。

電力土木の言い換えは、それを語の選択で示しました。

方法は違いますが、出題者の認識は一致しています。

ただし、人材や財源が禁止されたわけではありません。

テーマとして指定されれば主題であり、指定されていなければ翻訳してから使う。

判定基準は問題文の中にある——これが、来年に向けて持ち帰っていただきたい一行です。

まずは手元の過去問で、3点セットを封印した課題抽出を一度試してみてください。

苦しかったら、それが正しい練習になっている証拠です。


この記事のもとになった全体分析令和8年度技術士試験 建設部門全24問の分析

次に読む技術士二次試験が終わったら、まず再現論文を書く


※本記事は、日本技術士会が公開した令和8年度技術士第二次試験問題(建設部門)に基づく分析です。出題意図に関する記述は、問題文の記載から筆者が読み取った解釈であり、公式に示されたものではありません。判定に関する記述は、私自身の令和元年度の合否通知書と再現論文に基づく個人の分析です。


「3点セットを外したら、課題が1つも出てこなかった」

——もしそうなったら、それはあなたの実力不足ではなく、練習の入口に立てたということです。

ここまで読んで、

「じゃあ自分の答案はどうだったのか」と
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